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仙台高等裁判所 平成11年(行コ)14号 判決

控訴人

右訴訟代理人弁護士

沼澤達雄

被控訴人

新庄税務署長 髙橋要

右指定代理人

日下正次

阿部修

被控訴人

国税不服審判所長 島内乘統

右指定代理人

及川宜成

被控訴人両名指定代理人

翠川洋

高橋藤人

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人新庄税務署長が平成七年三月一〇日付けで控訴人に対してした次の各処分(以下「本件各処分」という。)をいずれも取り消す。

1  平成三年分の消費税の更正処分のうち納付すべき税額三一万五九〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、いずれも被控訴人が平成一〇年三月三〇日付けでした減額再更正処分後のもの)

2  平成四年分の消費税の更正処分のうち納付すべき税額三四万六三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、いずれも被控訴人が平成一〇年三月三〇日付けでした減額再更正処分後のもの)

3  平成五年分の消費税の更正処分のうち納付すべき税額三三万四二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、いずれも被控訴人が平成一〇年三月三〇日付けでした減額再更正処分後のもの)

三  被控訴人国税不服審判所長が平成九年五月二六日付けでした本件各処分に対する審査請求を棄却する旨の裁決を取り消す。

四  控訴費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり控訴人の当審における追加的主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」第二に記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の当審における追加的主張)

1  乙税理士は、平成七年一月五日、同月二七日及び同月三一日の三回にわたり、正規仕入帳を新庄税務署に持参し、これを石山調査官らに提示して閲覧検査するよう要請したが、石山調査官らは書き写しもコピーもだめであれば確認できないとして検査を拒否した。しかし、控訴人の仕入帳の実質的な検査は既に所得税調査で終了しており、法三〇条八項の帳簿の記載要件は形式審査で足りるから、右提示に係る正規仕入帳を手に取って見れば容易に確認できるはずである。したがって、乙税理士はこの段階で、石山調査官らの目的とする調査が一般調査ないし異例調査であり、他事考慮のための資料収集であると判断、一般調査において仕入帳全部の資料収集の必要性は認められないから、その理由の開示を求め、正当な理由の開示があるまでは資料収集を拒んだのである。すなわち、乙税理士が正規仕入帳を提示したにもかかわらず、その検査を拒んだのは石山調査官らであって、控訴人は、正当な理由の開示があるまで右のような違法な資料収集の要求に応ずる義務はなく、また、右理由の開示はされなかった。以上のとおりであって、控訴人は法三〇条七項の法定帳簿を保存し、これを適法に提示したのであるから、本件更正処分は取り消されるべきである。

2  違法な課税は国民の基本的人権である財産権の侵害になり、行政処分についても憲法三一条に規定する法定手続の保障が認められるべきところ、右のとおり、本件の課税処分は法定手続の保障に反し、違憲である。

第三判断

当裁判所も、当審において提出された資料を含む本件全資料を検討した結果、控訴人の請求は理由がないので、これを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」第三に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三〇頁一行目の末尾に次のとおり加える。

「なお、控訴人は当審において、仕入帳の記載の真実性を担保するものとして甲第一八号証(控訴人の商品の仕入れ等をメモした手帳の一部を撮影した写真)を提出し、また、控訴人は青色申告者であるから、所得税調査の終了により備え付けている帳簿書類の記載の真実性は担保されている旨主張するが、右手帳が石山調査官らに示されたことはなく(弁論の全趣旨)、また、所得税の調査後であっても課税仕入れの存否等の確認が不要となるものではない。要するに、後記のとおり、控訴人が税務調査の際に調査官に提出したのは当初提示仕入帳(後に条件付で正規仕入帳を提示)であるが、これらの仕入帳の記載が何らの調査を要することなく真実であるということについては、これを担保するものがなかったのである。

2  同三一頁四行目の「持ち帰った」の次に次のとおり加える。

「(控訴人は当審において、石山調査官は当初提示仕入帳を控訴人に無断で持ち帰って複写した旨主張するが、当審に提出された乙第九号証によれば、控訴人は平成六年五月一六日の調査の際、石山調査官から総勘定元帳のほか平成三~五年分米関係書類二八枚と記載された帳簿書類等預り書の交付を受け、同月一九日右帳簿等の返還を受けて受領欄に署名押印をしていることが認められるところ、当初提示仕入帳(甲一二。一二枚)が右米関係書類に含まれることは関係証拠及び弁論の全趣旨から明らかであって、右主張を採用することはできない。)」

3  同三四頁九・一〇行目の「できない。」の次に次のとおり加える。

「控訴人は当審において、一部補正仕入帳の提出時期を証する証拠として、平成七年一月二七日に「A商店」が乙税理士の事務所に来所した旨の記載のある右事務所の電話要件簿(甲二一の一・二)を提出するが、右電話用件簿の他の欄には、帳簿等を持参した場合にはその旨の記載がされているのであって、単に「来所」と記載されていることから、一部補正仕入帳が右当日に持参されたということにはならない。」

4  控訴人の当審における追加的主張に対する判断

(一)  前記認定のとおり、控訴人は石山調査官が調査のために控訴人宅を訪れた平成六年五月一六日に当初提示仕入帳を提示したが、石山調査官は、当初提示仕入帳は法三〇条八項に規定する「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」の記載が不十分であるため控訴人にその補完を要求したところ、乙税理士は同月二三日、当初提示仕入帳に補完記載をした一部補正仕入帳を提出したが、右補完記載によっても不十分な部分があったため、石山調査官は乙税理士に対し、更に補完を要請していたこと(控訴人は、平成六年五月には石山調査官に当初提示仕入帳を提示しなかったが、石山調査官が勝手にこれを持ち帰って複写した旨、また、一部補正仕入帳を提出した時期は平成七年一月二七日である旨主張するが、前記のとおり、いずれも採用することができない。)、石山調査官は当初提示仕入帳のほかに正規仕入帳があることは知らされていなかったところ、平成七年一月五日、乙税理士が正規仕入帳であるとする仕入帳を持参して新庄税務署を訪れ、石山調査官に対し、正規仕入帳を提示する条件として「A商店との約束があるので、コピーしたり書き写したりしないで欲しい。」旨要求したこと、これに対し、石山調査官は、右のような条件が付された場合には、真実の取引かどうかを判断しかねるとの考慮から、「書き写しもコピーもだめとなれば確認できない。」旨述べ、右条件を外すよう要求した上、取引先の住所、氏名を書いて出してもらいたい旨改めて要求した(同様のやりとりは同月二七日及び三一日にも行われた)ことなどの事実が認められるのであって、右のような経緯に照らせば、原判決が説示するとおり、石山調査官が正規仕入帳のコピー又は書き取り等情報の共有を要求したことは、仕入税額控除の対象となる課税仕入れの真実性を検討するために必要な措置であり、かつ、許容されるものというべきである。

(二)  控訴人は、控訴人の所得税調査は終了し、法三〇条八項の帳簿の記載要件の確認は形式審査で足りるから、石山調査官らが控訴人の申し出た検査を拒否したのは違法である旨主張するが、法が仕入税額控除の要件として法定帳簿等の保存を義務づけ、これを保存しない場合には仕入税額の控除をしないとした趣旨は、申告納税制度を採用する消費税について、税務署員が法定帳簿等により申告の正確性を確認することができるようにすること、すなわち税務署員が申告に係る課税仕入れの存否を確認し、課税仕入れに係る適正な消費税額を把握することができるようにすることにあるものと解される。したがって、申告に係る課税仕入れの存否等を確認するためには、仕入先の調査が必要になる場合もあるから、その氏名又は名称等のコピー又は書き取りの必要性が生ずるのであって、右確認が控訴人の主張するような形式審査すなわち正規仕入帳の閲覧のみで足りるということは到底できない。また、控訴人が主張するように、所得税調査が終了しているからといって、当然に法定帳簿等に基づく調査の必要がなくなったものともいえない。そうすると、控訴人がコピー又は書き写しをしないことを条件として正規仕入帳を提示したのは、提示を拒否したことと異ならず、右拒否に正当な理由は認められないから、控訴人が主張するように、石山調査官らが正規仕入帳を提示されたにもかかわらず検査を拒否したものということはできない。

また、控訴人は、石山調査官らの調査が一般調査ないし異例調査であり、他事考慮のための資料収集である旨主張するが、前記のとおり、石山調査官らが控訴人に対して仕入先の氏名等を明らかにするよう求めたのは、申告に係る課税仕入れの存否等を確認するためであって、右のような調査が一般調査ないし異例調査であり、他事考慮のための資料収集であるということはできない。

(三)  以上のとおりであって、石山調査官らの調査の過程ないし手続に違法は認められないから、控訴人の主張は理由がなく、右違法があることを前提とする違憲の主張も理由がない。

二 よって、同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大内俊身 裁判官 吉田徹 裁判官 比佐和枝)

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